サディズムは絶望の土壌で育ちます。
2024.09.30
「前を見ては、後へを見ては、物欲しと憧るるかな我」
(we look before and after And pine for what is not )
夏目漱石が自身の著作『草枕』の中で、イギリスの詩人シェリーの『ひばりに寄せて』(To a skylark)の一節を引用されています。
他人と自分を比較しては劣等感に嘆き、常に「ないものねだり」をしてしまう人間の悲し性(さが)が表現されている一節です。
シェリーの詩以外にも『草枕』の中には、人間関係の難しさを嘆く有名な名文があります。
「智に働けば角が立つ 情に棹せば流される 意地を通せば窮屈だ とかく人の世は住みにくい。」
人と関わることに大の苦手意識を抱えている私は、いつもこの言葉が頭の中でループしています。
努力しても克服できない「生き辛さ」を感じている人間にとって、夏目漱石の文章の表現は胸に響き慰められるものがあります。
同時に小説を読むことで、夏目漱石の抱えていた深い悲しみや苦悩を垣間見ることができます。
行動遺伝学者の安藤寿康氏は著書の中で、「身体だけでなく、性格や才能、能力、生き方の約70%が「遺伝」の影響を受けている」ということを主張されています。
人間の体質や人生に影響をもたらす「環境」の要因までもが「遺伝」の影響を受けているとも言われています。
親の良し悪しで子どもの人生が決まってしまうという、受け入れ難い現実が存在していることを著書の中で詳しく述べられています。
「習慣が第ニの天性」と表現された方がいましたが、私自身も身に染みて実感させられていることですが、頭で分かっていても根深く身に付いてしまっている「習慣」や「習性」を変えることは「至難の業」です。
行動遺伝学者の安藤さんの主張を否定する意見もありますが、自分の苦手を克服する為に約50年間、多大なエネルギーとお金を費やしながら生きてきた私の見解としては、「遺伝の真実」は、認めたくないけれど、認めざるおえない「真実」でもあるということを深く理解しています。
ドラマのタイトルにも起用されている「虎に翼」という言葉の表現の生みの親でもある、思想家の韓非は生まれつき重度の吃音があったと言われています。
重度の吃音が原因で、「吃非」というあだ名をつけられ、自国の人々には見下され辛い人生を送っていましたが、優れた洞察力と文才能力を秦の王(後の始皇帝)に認められ重要な官職に起用されることになります。
韓非の能力に嫉妬した者の陰謀により、悲しい最期を迎えることになりますが、後世に名を残すほどの著作を生み出されていることも事実です。
運命は時に残酷で、肉体的な障害や性格の欠点などで生き辛さを感じることがありますが、与えられた「運命」や自分自身の変えられない「資質」や「気質」を否定せず受け入れた時、思わぬ才能が開花されることがあります。
私たち人間の魂がこの地球に生まれて来る時、それぞれが掲げている「テーマ」に合った「DNA」を選んで生まれてくるそうです。
過去世から引き継いでいる「苦手を克服する」ことが人生のテーマとなっている方は、苦手な分野を繰り返し訓練して克服していく必要はあるかもしれませんが、無理に苦手を克服しようとせず、得意な人の力を借りたり、進化しているAIの力を借りながら、限りある人生を有意義に過ごされてほしいと私自身は考えます。
猟奇的な犯罪のニュースを耳にする度に、「サディズム(加虐愛)は絶望の土壌で育ちます。」と主張された心理学者の言葉が思い出されます。
子どもを産んだ親も、社会の大人たちも、様々な個性を持った子どもたちを温かく見守り、その個性を良い形で活かしていけるような教育システムが実現されていくことが望まれます。
この世に生きている全ての人が、「存在価値」を尊び、この世に「生まれて来たこと」や「生きていること」に絶望しない社会を創っていくことが、今生きている大人たちの役目だと思います。
“Cherish your uniqueness ,no, you don’t need to hide it,
Each one of us holds our own special seed
So just be true to you ,that’s all you’ll ever need.”
(自分に備わった独自性を大切にしてください。
一人一人それぞれ違う特別な種を持っています。
その花(真実の自分)を咲かせることだけに 一生懸命になればいいのです。)By Noriyuki Makihara